ゴラン・ラゾヴィッチ

学生寮の桜 



きみには通りはいまも昔のまま
ぼくは手紙に寄せた
きみのクロッカスの花のまま
読みやすく書くんだ
憂愁がぼくの身をかじる
きみのことを思う気持ちはかけがえのない綬章
きみがまだおなかを空かせた学生に口づけている間は
そのかび臭い部屋には
上着が何着かあった
口づけが銃弾よりも速かったころ
蟻とカントとスピノザに囲まれて
たくさんの願いとすこしだけの贈り物とともに
お互いに煙突掃除人ごっこをした
きっとあまり大事なことではないのだろう
きみの枕の下でカフカが息をしていた
知識は暗闇の断片の中で得た
きみのおなかからさくらんぼを食べながら
ぼくの中にはまだ夏の霧がかかっている
プルーストと散歩から帰って来たとき
雨のスープを作ったことがあるね
夜まで二人で初めて過ごしたとき
トラムの運転手にボタンも息をしていると説得したね
ヴォジドヴァッツは水力発電所になった
大きな声でミツバチを数えて
涙にぬれた風景を集める人たちを慰めた
パン焼きたちはきみがぼくの最愛のひとだと知っていた
読みやすく書くんだ
憂愁がぼくの身をかじる
きみのことを思う気持ちはかけがえのない綬章
きみがまだおなかを空かせた学生に口づけている間は
きみは若い兵士にとって休暇のような存在だった
きみの足は炭鉱夫たちにはダイナマイトのように思えた
郵便配達人たちは肩を貸しながら
きみが彼らの喜びの電報のための封筒になることを望んだ
若者たちはきみを見るとどこでだって偉そうに振る舞い
円柱や四角錐の公式を暗記していた
その日警察官は身分証明書の信憑性を
きみの唇のあとの中に探した
野犬捕獲員と清掃員は蚊のようにきみを攻めたて、
エリートは過去の戦争の残りかすを取り囲んだ
きみの微笑みは信頼できる航空券
岩壁はきみを鷲のように嫉んだ
でもきみはぼくだけを愛していた
きみには通りはいまも昔のまま
ぼくは手紙に寄せた
きみのクロッカスの花のまま
まだ影が蛍のようにきみの周りを飛びまわっている
ナポレオンはその頃ぼくにとってただの子どもだった
まるできみの祈りの中の名誉ある修道士のようにいつも
ぼくはきみを咥えて、目で養い
クンデラにパイを買いに行かせさえした
街灯はぼくの夜の操縦士だった
きみとぼくは幸せに征服された国だった
きみの長く伸びる道はろうそくで照らされ
チェチェンの女が心をこめて鎧の綻びを縫ってあげたロシア人将校は
回転ブランコであり、傷んだギターの修理士だった
空っぽの帆船の漁師たちにぼくはまじない師のふりをした
涙がオリーブの実よりも大きいきみのせいで
疲れたレジ係の女の夢から溺死者が引きずり出された
きみの歩みは離婚した両親の子どものようにぎしぎしと軋み
乳房は一人ぼっちで残った革命のにおいがした
鷹匠と理髪師はぼくたちの死んだ警護隊
そして宇宙飛行士もきみがぼくの最愛のひとだと知っていた
読みやすく書くんだ
憂愁がぼくの身をかじる
きみのことを思う気持ちはかけがえのない綬章
きみがまだおなかを空かせた学生に口づけている間は
額縁に入った長く待ち望まれた赤ん坊の訃報は
きみとぼくの別れの痛みに等しい
心を痛めた人も
立会人もいなかった
虹は最後にきみの眼から飛び立っていった
わたしの良いことだけを覚えておいてと
きみは言った―
抗うことは出来ないの
時々思い出させてほしい
人生はきりのいい数字だけではないことを
空を見上げてごらん
ママに口づけてごらん
自分を大事にしなさい
愛は死んだ燕の歌声でもあるの
わたしたちは上手くいかなかったのよ
きみには通りはいまも昔のまま
ぼくは手紙に寄せた
きみのクロッカスの花のまま
住所を読み上げて切手を貼っている間に
ぼくの視線は街の公園で止まった
サヴァ川を見つめるぼくたちのベンチに
いつかのきみのような金髪の少女が見える
きみはその子に微笑みと体を貸したんだね
ぼくからは手と目と額を取って
花の輪の中で不安がとけてゆく
ぼくに好きだと言ってほしい
彼女はぼくたちの本から抜け出たんだね
きみには通りはいまも昔のまま
ぼくは手紙に寄せた
きみのクロッカスの花のまま
読みやすく書くんだ
憂愁がぼくの身をかじる
きみのことを思う気持ちはかけがえのない綬章
きみがまだおなかを空かせた学生に口づけている間は



Ириша Власова


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